福田ゆみ:皆さんこんにちは、福田ゆみです。
花粉症の皆さんにとっては大変な時期ですが、頑張りましょう。
それでは隅田先生、今月も税務会計講座をよろしくお願いします。


隅田:はい、よろしくお願いします。
今月から3か月にわたり、「開業」というテーマでお話しします。
春が近づき、新生活を始める人もいると思います。その中には開業する人もいるでしょう。


福田ゆみ:タイムリーなテーマですね。

隅田:実は開業というテーマ、お話しすべきことがとっても多岐にわたります。
開業と聞くと、自分の力を試そうと、職場を辞めて独立開業する人を思い浮かべるかもしれません。
しかし現実は、各人の置かれている状況は実に様々です。特に、ここ十数年で就労形態が多様化し、どこにも雇用されず、フリーランスとして開業を余儀なくされる人もあります。
その一方で、インターネットの普及により、インターネットを利用した事業を展開する人もたくさん現れています。中には、小遣い稼ぎ程度で始めた物品の転売や動画アップが好調なため、それで生活するようになる人もいるに違いありません。


福田ゆみ:そう考えると、開業にもいろいろなパターンがあるのですね。

隅田:はい。これだけパターンが多いと、規模も大小さまざまです。
そのうえこの事業を、個人で行うか法人で行うかによって、法律上の制約・そして税務上の制約がいろいろと異なってくるという側面もあります。
さらに、この講座をご覧になる方は、独立を考えている方もあって、きっと独立開業するのは得か損かを知りたいことでしょう。さらに、どういう帳簿を付ければいいのか調べてもいることでしょう。
具体的にお話ししたいところではありますが、あくまでも税務会計講座ですので、税務上の制約や会計・帳簿のことを中心にお話ししていきます。


福田ゆみ:では改めまして、よろしくお願いします。

隅田:まず、「独立すべきかどうか」からお話しします。
といいますのも、給料をもらう場合と、独立して個人事業主として売上をもらう場合とで、個人所得税では制度が大きく違うのです。


福田ゆみ:私も、事業所得で確定申告しているので、よく分かります。

隅田:所得というものは、原則として「収入」−「経費」で計算します。
「経費」とは「収入を獲得するための犠牲」です。何でもいいわけではありませんので、いちおう釘を刺しておきます。
事業所得の金額はこの原則のとおり、「事業収入」−「経費」で計算します。
ところが給与所得の金額は、「給与収入」−「給与所得控除額」で計算するのです。


福田ゆみ:その「給与所得控除額」というのは、何なのでしょうか?

隅田:一言でいえば、勤務費用を概算したものです。
つまり、給与所得者がその勤務のために自ら負担している、交通費、書籍、文具、衣服等の費用があると思います。これらは給与収入を得るために必要な経費としての性質を持っています。
必要経費とするためには本来ならば記録や領収書が必要なのですが、政策的に概算とし、しかもその計算は給与収入額に応じたものとしています。
例えば、給与収入が年間300万円ならば給与所得控除額は108万円、年間500万円の給与所得者の給与所得控除額は154万円、というものです。


福田ゆみ:この概算額以上に実際の経費があれば、それが認められるのですよね。

隅田:はい。「特定支出控除」と言って、これを給与収入額から控除できます。
しかし一般的に、実際の経費の額の方が少ないと思います。


福田ゆみ:給与所得者にはなぜ、こんなに多くの控除額が認められているのでしょうか?

隅田:それは、「給与所得控除」にはもう1つ、「他の所得との負担調整」の機能があるからです。
給与所得者は一般的に、使用者の指揮命令に服していますから、雇用関係に不安定性があり、勤務に際して空間的・時間的拘束を受けるなどの負担を余儀なくされています。
事業所得や資産所得は継続的・安定的なものですので、これと比較すると給与所得は、担税力(税を負担する能力)が相対的に小さいと考えられますよね。


福田ゆみ:やはり、実際の経費の額より多くなる傾向にあるのが「給与所得控除」なのですね。

隅田:とはいえ、現在の制度で概算した給与所得控除額が妥当とは限りませんので、今後改正は十分にありえます。

福田ゆみ:とすると現状では、せっかく独立開業しても経費があまりない場合、給与所得者でい続けるよりも税金は・・・。

隅田:むしろ多くなる、と考えた方がいいです。

福田ゆみ:うーん、悩ましいですね。

隅田:では次に、個人で独立開業する場合の所得の種類についてのお話です。

福田ゆみ:そういえば、税務では「事業」とはどういう意味ですか?

隅田:世間でいう「事業」とほぼ同じです。強いて言えば、事業には主に次の3つの性質がある、と過去の判例で示されています。
@自己の危険と計算において独立的に営まれる
A営利性、有償性を有する
B反復継続して遂行する意思と社会的地位とが客観的に認められる


福田ゆみ:すると、この3つの性質を満たせば所得は「事業所得」なのですね?

隅田:そう言いたいところですが、規模や業種により所得区分は主に次の4種類に分かれます。
1.「不動産所得」は、業種が不動産等の貸付業の場合に該当し、規模を問いません。
2.「雑所得」は、不動産等貸付業以外の“業”であっても、“事業”と称するに至らなければ、その所得は「雑所得」です。
3.「山林所得」は、林業のうち5年以上育てた樹木を売買した場合に該当します。
4.「事業所得」は、不動産等貸付業と林業以外の業種を、事業と称するに十分な規模で行っていればこれに当たります。
とはいえ、「独立開業」と言えば通常は「事業所得」に当たる業種ですよね、すみません。以降、「事業所得」を前提にお話しします。


福田ゆみ:分類が違っても、所得の計算はどれも同じですか?

隅田:例えば「事業所得」と「雑所得」は、どちらも原則どおり、「収入金額」−「必要経費」で計算します。つまり、事業所得でも雑所得でも、所得の金額は同じになる、ということです。
しかし、その稼ぎで生活する意図を持つ「事業所得」と、片手間に儲けた「雑所得」とで、担税力が同じであるはずがありません。
そこで利用していただきたいのが、次にお話しする「青色申告制度」です。


福田ゆみ:出ました、「青色申告」。

隅田:青色申告は、事業性所得である「不動産所得」「事業所得」「山林所得」だけに認められている制度で、実際に申告の所定の用紙が青い色をしていたのでそう呼びます。
事前に税務署に「青色申告承認申請書」を提出し、以後は帳簿等を記帳・保存することが義務になりますが、この事務負担に配慮した、いくつかの特典があります。
その中の1つ、「青色申告特別控除」は、事業所得の金額を、「収入金額」−「必要経費」−「青色申告特別控除額」で計算できる、というものです。事業所得の担税力に配慮した制度ではありませんが、給与所得には存在しない制度で、事業所得の金額を減らせて節税になりますので、利用していただきたいです。


福田ゆみ:事業所得が、「青色申告特別控除額」だけ減らせますものね。
では、「青色申告特別控除額」は、いくらですか?


隅田:これは、帳簿の精度などによって変わることになっています。ですからここからお話しする内容は、帳簿の簡単な説明も並行します。
まず、簡易なものであっても帳簿があれば10万円までの特別控除が受けられます。


福田ゆみ:簡易な帳簿と言いますが、どこまで簡易ならいいのでしょうか?

隅田:勘定科目ごとの集計表があれば、それで十分です。
例えば大学ノートに、売上は1月が日々いくら、2月が日々いくら、と書いておけばいいですし、ガソリン代を経費に入れるならばいついついくらと書いておけばいいのです。


福田ゆみ:その程度でいいのですか!? 白色申告の人でもすでにしていることだと思うのですが。

隅田:ゆみさん、まさにそうなんです。

福田ゆみ:笑。

隅田:もう少し頑張って、日ごと・取引ごとの金額をメモするようにすれば、それは十分に簡易帳簿です。
「私は白色申告でいいです」と言う人が結構いるのですが、自信を持って青色申告になればいいと私は考えています。


福田ゆみ:先生がそこまで言うのでしたら、10万円の控除を受けるためのハードルはだいぶ低いのですね。
そして、ハードルはもう1つありますよね。


隅田:はい。複式簿記による帳簿を作成して保存し、さらに確定申告時に提出する青色申告決算書に貸借対照表を添付する、という2つの条件を満たせば、最大65万円の特別控除が受けられます。

福田ゆみ:この講座の初回と2回目に話していただいた複式簿記ですね。
左右に、例えば「現金/売上」と科目を書いて、金額いくらと書いて、左を借方・右を貸方というのでしたよね。


隅田:はい。そのように記録した「仕訳日記帳」という帳簿と、そこから出来る「総勘定元帳」といういわば科目ごとの増減表を保存することになります。

福田ゆみ:そして貸借対照表というのが、その時点の事業の財政状態を表すのでしたよね。

隅田:はい。貸借対照表には、左側である借方に「現金」「商品」「機械」などの資産科目が並び、右側である貸方に「借入金」などの負債科目や「元入金」などの資本科目が並んでいます。借方の資産は、持っている財産を表し、貸方の負債や資本は、それら保有財産の資金調達方法を表しています。
・・・と説明はしましたが、自身でこれらを作り上げるのは大変ですから、65万円の特別控除を受けるのは、帳簿作成を代わりに行う税理士との関与が前提と考えてください。


福田ゆみ:分かりました。皆さんも是非、青色申告を利用して節税を図ってくださいね。

隅田:では、今月の税務会計講座を終わります。

福田ゆみ:隅田先生、どうもありがとうございました。

Point
1.「給与所得控除額」は一般的に、実際の勤務費用よりも多額に計算される。
2.青色申告は、帳簿等の作成・保存の義務を負う代わりに、「青色申告特別控除」などの特典がある。
3.65万円の青色申告特別控除を受けるには、複式簿記で記帳し貸借対照表を作成すべし。