福田ゆみ:みなさんこんにちは、福田ゆみです。
ゴールデンウィークですね。映画に舞台にレジャー、皆さん大いに楽しまれているでしょうか。
それでは今月も隅田先生、税務会計講座をよろしくお願いします。


隅田:はい、よろしくお願いします。
開業がテーマの最終回は法人設立、いわゆる「法人成り」をお話しします。


福田ゆみ:「法人成り」は、普通の「法人設立」と違うところがあるのですか?

隅田:「法人成り」とは、個人の事業を新設法人が引き継ぐことを言います。通常はこの時に個人事業は廃業となります。
事業を引き継ぐといっても、単に売上や仕入経費だけでなく、「営業」という組織的有機的一体物を引き継ぎますから、法的にはもちろん、会計上そして税務上も、色々と気を付けなければ想定外の税金が発生することがあるのです。


福田ゆみ:具体的にどういうところに気を付けるのですか?

隅田:まずは事業用財産だけで考えてみます。
事業用財産を法人に引き継ぐ、この行為を、法律では譲渡と考えます。「売却」と言った方が分かりやすいかもしれません。
複式簿記にするとよく分かると思います。1000万円の資産を法人に引き継いだら、法人は、


資産 1000万円 / 未払金 1000万円

法人といっても身内ですから、代金を受け取ることはないでしょう。しかし、結果として会計上は「未払金1000万円」が発生します。

福田ゆみ:言われてみると・・・。法人に売ったという認識のない人もあると思います。

隅田:ここで考えなければならない税目は、「所得税」と「消費税」です。
まず所得税から。売却益が発生すれば、その所得に係る所得税を納めなければなりません。
ただしこの売却益、引き継ぐ資産の使用目的等で所得の種類が異なります。
・棚卸資産であれば、事業所得です。
・棚卸資産以外の不動産であれば、分離課税の譲渡所得です。
・棚卸資産以外かつ不動産以外の事業用固定資産であれば、総合課税の譲渡所得です。
なお、法人成りをきっかけに新たな事業を始めることもあるでしょう。その事業に係る資産が、
・生活用固定資産であれば、非課税です。
・事業用でも生活用でもない固定資産であれば、総合課税の譲渡所得です。


福田ゆみ:税金がかかるものとかからないものがあるのですね。
といっても、生活用固定資産を引き継ぐことはほとんどないですから・・・。


隅田:通常は所得税がかかる、と考えてください。

福田ゆみ:譲渡所得も「収入」−「経費」と計算するのですか? 自分の会社に固定資産を売る時に経費はほとんど発生しないと思うので、税金もそれだけ多くなりそうに思います。

隅田:所得金額の計算は、基本的な考え方として「収入」−「経費」で合っています。
この点、譲渡所得の計算では、「収入」は「譲渡価額」、「経費」は「取得費と譲渡費用の合計」になります。つまり、“取得費”を経費に含めることができます。
ただし“取得費”は、購入代金等から“償却費相当額”を控除した金額でなければなりません。そしてこの“償却費相当額”を説明するには、まず“減価償却”の説明から始めなければなりません。


福田ゆみ:では、“減価償却”とは何ですか?

隅田:減価償却とは、固定資産の使用期間に渡って固定資産の取得価額を規則的・継続的に経費化するとともに、固定資産の帳簿価額を減額することです。
固定資産を購入すると、一時に支払いが発生します。これをもし現金主義で考えると、支払額イコール経費です。
しかし、固定資産は長期間使用するものですから、使用期間に渡って経費にしなければ、毎年の事業利益が比較できないものになってしまいます。
そこで、減価償却という経理によって使用期間に渡って経費の配分を行います。この経理を単に“償却”と呼ぶこともあります。


福田ゆみ:すると、“償却費相当額”というのは・・・。

隅田:今までの減価償却費の累計ということです。

福田ゆみ:そういうことなのですね。
ということは、もし“取得費”と同じ額で売却すれば、売却益が出ず、譲渡所得もないことになりませんか?


隅田:理論上はそうです。
ですが、その金額で果たして第三者に売却するでしょうか? 客観的に合理的な価格を設定しましょう。
法人に対して贈与、または時価の1/2以下の価格で売却した場合、個人側の譲渡所得の「収入」は特例で時価相当額となりますし、法人側も時価との差額を「資産受贈益」として計上しなければなりません。


福田ゆみ:そうなっては、余計に税金がかかって裏目に出るのですね・・・。
今思いついたのですが、減価償却は法人でもできますよね。でしたら、客観的に合理的な価格が高くても、法人がそれで買い取ればたくさん減価償却することもできると思います。


隅田:そうなんです。気づいてくれて嬉しいです。
ちなみに、不動産以外(総合課税)の譲渡所得は、その譲渡益とイコールではなく、譲渡益から特別控除額(最大50万円)を控除した金額です。したがって、客観的に合理的な価格が取得費より大きかったとしても50万円以内ならば、譲渡所得はゼロになります。
さらに、譲渡資産の保有期間が5年超であれば、これを長期譲渡所得といい、2分の1が他の所得に合算されます。
これら、特別控除額や長期譲渡所得の2分の1課税の制度があるのは・・・。


福田ゆみ:「担税力」ですね。笑。

隅田:そうです。
譲渡という一時的な行為による所得は、給与所得や事業所得のような経常所得に比べて担税力が低いと考えられるからです。


福田ゆみ:譲渡所得に気を付けなければならないことがよく分かりました。

隅田:次に消費税です。
個人事業者が法人へ売却する行為は、消費税課税取引です。
したがって、個人が消費税の課税事業者であれば、消費税を納めなければなりません。
もし1,080万円で引き継ぐのでしたら、消費税80万円を納めることになります。
引継ぎ価格を大きくすればするほど、消費税は大きくなります。


福田ゆみ:確かに盲点ですね。でも、そんなに問題でしょうか? その分、法人も消費税を払うわけですから。

隅田:いえいえ、かなりの問題です。
法人には、資本金が1000万円未満であれば開業時は免税事業者であってもいい特例があります。
法人が、個人から1,080万円の資産を引き継ぐとしても、1年間で仮に3,000万円売上げるのであれば、免税事業者である方が消費税は節税できます。
したがって、個人の側は消費税を納めるのにかかわらず、法人の側はその消費税は戻ってこない、これが問題なのです。


福田ゆみ:引き継ぐ以上、どうすることもできないですよね。

隅田:その場しのぎの策ですが、法人が個人から資産を借りるという方法があります。法人は賃借料を支払い、個人は賃貸収入を受ける、ということです。
賃借料を減価償却費と同額ぐらいに設定すれば、法人の損益はほとんど変わりませんし、個人には譲渡所得の問題も多額の消費税の問題も発生しません。しかし、個人事業を完全に廃業しようにも、いつまでも事業の廃止ができず、確定申告し続けなければなりません。


福田ゆみ:それはそれで困ったことですね。

隅田:法人成りのメリットとして、つい消費税の免税ばかりに目が行きます。現実にそれは非常に大きなメリットなのですが、個人側の事業用財産の売却に係る消費税についてもきちんと知っていただきたいと思います。

福田ゆみ:皆さんも気を付けてくださいね。

隅田:ではここからは、事業用財産だけでなく事業用負債もあるとどうなるかを見ていきます。
法人成りすれば、個人の事業借入金も法人が引き継ぎ、これを法律用語で債務引受けといいます。もし1000万円の借入金を引き受けると、法人側の経理を複式簿記で表すと、


代表者貸付金 1000万円 / 借入金 1000万円

個人の側に立てば、新設法人からお金を借りた覚えはないのに、法人に返さなければならない1000万円が発生します。

福田ゆみ:・・・。すみません、絶句してしまいました。
本当に返さなければならないのですか?


隅田:いえいえ。負債だけに着目するとこうなる、ということです。
1000万円に相当する事業用財産とセットで借入金を引き継げば、その仕訳は、


事業用資産 1000万円 / 借入金 1000万円

譲渡所得の税額の基礎となる収入金額も、負債を控除した純額で考えて問題ありません。この場合ですと譲渡所得はゼロですね。

福田ゆみ:安心しました。では、消費税はどう考えるのですか?

隅田:消費税では、債務引受けという行為は、現金を支払う代わりの決済方法と考えます。このため、法人に債務を引き継がせても、個人の側は結局、1,000万円の資産を売却したことに伴う消費税を納付しなければならないのです。

福田ゆみ:そうなのですね。法人成りに消費税は盲点だということがよく分かりました。
先生、ありがとうございました。


Point
1.法人成りの事業用財産の引継ぎに係る所得は、棚卸資産であれば事業所得、それ以外の事業用財産(不動産以外)であれば総合課税の譲渡所得
2.法人成りにて高額の事業用財産を引継げば、個人は多額の消費税を納付しなければならない
3.法人成りでの債務引受けは、所得税上は収入金額から控除できる。消費税上は無関係。

福田ゆみ:今回をもって税務会計講座は終了させていただきます。
約2年に渡って講座を受け、さすが税理士さん!と思うことがたくさんありました。


隅田:私も、これらの講座は一般の人だけでなく、税理士事務所の職員も読むだろうと想像できましたから、あえて専門的で難しい内容をところどころ織り交ぜつつ、平易な表現でお話しするよう心がけてきました。
まだまだ話したいことはあるのですが、これで一区切りとします。ゆみさんには聞き手となっていただき、本当にありがとうございました。


福田ゆみ:こちらこそ、ありがとうございました。そして、今まで税務会計講座を読んでいただいた皆さん、

福田ゆみ・隅田:本当にありがとうございました。